【テーマ】多様な視点から運動器疾患を捉える~過去・現在・未来~
【日 時】平成27年4月25日〜26日
【講 師】
石井 慎一郎 先生(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 教授 理学療法士 保健医療学 博士)
田中 創 先生(九州医療スポーツ専門学校,九州医療スポーツクリニック 副院長) 吉住 浩平 先生(福岡志恩病院 リハビリテーション部 主任) 多々良 大輔 先生(福岡志恩病院 リハビリテーション部 部長)
【参加者】240名
【報 告】
第7回となるMNS Holdingsのセミナーは県内外より240名の方にご参加頂き,大盛況ののちに開催されました.今回のセミナーに対する期待が伺え,講師陣も程良い緊張感のなかで話を進められているようでした.
今回は,ホールディングスのスタッフがセミナーを振り返り,各講師に対してそれぞれの視点からレポートを作成しました.
<石井 慎一郎先生の講義>
「バイオニクス」×「運動器疾患」という題材で、今回は、「二本の足で歩くこと」を
テーマに、石井慎一郎先生が過去から現在にかけ、研究・経験されてきたことを講義して頂きました。
二本の足で歩くことで、そこに起因して起こる現象を臨床でもよく目にします。
「二本の足で歩く」ということは、どのようなことが身体に起こっているのか。
人類の進化の過程の中で適応するために変化してきた機能解剖学的な面、直立二足歩行になり、エネルギー効率がよくなった歩行の中でどのような運動が起こっているのかといった力学的な面をわかりやすく話して頂きました。
また、動こうとする際に、動作に先行して起こるvertical extensionの重要性や重心移動・位置、セラピストの誘導方向や声掛けなど、ポイントとなる部分では、デモンストレーションを通して、解説して頂きました。
今、臨床でみている患者様の歩行が本当に合理的で効率的な歩き方なのか。歩行は、完璧に制御された不安定性があってからこそできる。という、先生の言葉に、安定性ばかりを求めてしまい見失っていたことがあることに気付かされました。
人類の進化の過程まで遡り、そこから導きだされたリーチ動作のトレーニングなど、歩行動作をバイオメカニクスという視点から話される先生の講義は、歩行だけではない日常の動作に繋がることも多く、とても勉強になりました。
先生方が過去の経験を経て今回講義して頂いたことを、明日からの臨床に自分たちがどのように活かし体験していくのか、これからの臨床が楽しみになる講義でした。
ありがとうございました。
<田中 創先生の講義>
2人目の講師は九州医療スポーツクリニック副院長である田中創先生に『運動器疾患×運動連鎖』というテーマでデモンストレーションを交えながら講義をしていただきました。
まず最初に運動連鎖とは何かを運動力学、運動学の視点からお話ししていただきました。CKC、OKCでの動きの考え方、関節内での相対的な動きの考え方など目に見えない部分をどう評価し考えていくのかという必要性も改めて考えさせられました。
末梢の動きが中枢へ及ぼす影響、下肢だけでなく胸郭や上肢までどう影響するのか、それを治療にどう活かしていくのかデモンストレーションを交えながら行うことで実際にイメージがしやすかったのではないかと思います。
対象者にとって意味のある課題を用い評価、治療を進めていく点や前後の変化を見極める能力を身につけなければならないと感じました。
現場での物事の考えかたを変えるヒントになったのではないかと思います。
知識を知恵に変える、最も重要であり最も難しいことであると思います。勉強会や書籍、インターネットから様々な情報を収集することができます。収集して終わりではなく、それらから学んだ知識を自分の臨床にどう落とし込んでいくか、ということがとても重要であると感じました。
<多々良 大輔先生の講義>
なぜか引き込まれているプレゼンテーション。たくさんある知識・技術の中で、先生がまさに選択した内容は経験の若い僕らにとって、道しるべとなるべきものがたくさんあるからなのだろうと思います。
また、表現に気をつけ、言葉に気をつけている箇所が何度も見受けられました。これも先生の中での情報の取り方を気をつけている結果でもあると思います。
講義の内容は①過去・未来・現在②リスク管理③クリニカルリーズニング④関節適合性⑤機能障害の絞り込み⑥case
studyにわけて話をされていました。
①過去・未来・現在
過去を振り返って、昔は知識を収集(Collection)すればよかったが、今は情報を選択(selection)する時代になってきたという話から始まりました。
情報が大量にある今の時代にその情報をどのようにとっていくべきかセンスだけではなく、組織の中で選ばれるセラピストにならないといけません。
それは、いわゆる職人の方々がつくられるような作品ではなく、患者さんから選ばれるような品質を意識したものを地域に提供できるのかで決まって来ます。
そのことから言えば、患者さんに説明できるだけではなく、経営者であるDrにたいしてプレゼンテーションできなければなりません。
簡単ですが、それを実際にやられていることは講義中にはでていないたくさんの試行錯誤があったらこそたどり着いたものであると思います。
②リスク管理
変形性膝関節症の方に対して、「よくなるかどうかはわかりませんが、大腿四頭筋の筋力をつけていきましょう」という説明では患者さんもやるはずがありません。運動を提供するためには知識も必要であって、回復をさまたげないリスク管理も必要です。
先生は講義の中で「リスク管理=自然治癒能力↗︎×誤用症候群↘︎」ということを脳卒中の肩関節について説明をされていました。
悪くならないことを前提に考えるからこそ、患者さんをいい方向に導くことができるのだと思います。
③クリニカルリーズニング
患者さんの自己効力感をいかに強化していくか、対象者の方との共同的推論の中で共有していくこと。それは評価を測定ではなく、検査まで引き上げること。
つまり、出ている現象をなぜそうなっているのかを考える。
骨関節系の問題にとどまらず、多角的な視点で考えていくことが必要だと言われていました。
④関節適合性、機能障害の絞り込み
結果として起こっている問題をどのように解釈するのか、デモンストレーションをしながら伝えていました。
膝蓋骨の傾きが結果として外側に傾斜すること(外側広筋・大腿筋膜張筋・大腿二頭筋)で痛みが出ている方に対して、単純に緩めることがいいのかどうか説明しながら行われていました。
⑤case study
下腿までしびれがあった症例の方に対して、様々な徒手検査、文献の知識を解釈し、治療としてどのように行っていたったのか説明をされていました。
圧倒的な考えの深さに始めて聞いた方はびっくりされたことと思います。聞いたことのない方は、ぜひとも実際にどのように考えているのか一度見て頂きたいと思います。
<吉住 浩平先生の講義>
吉住浩平先生が徒手理学療法を通じて,数々のインスピレーションを受けた先生方の紹介から始まり,Synergy勉強会の発足に至ったエピソードから仲間との出会い,そしてこれからの未来像からお話ししていただきました.吉住浩平先生の人柄を感じさせていただける内容で思わず聞き入ってしまいました.今回のテーマは股関節ではなく, 運動器疾患を神経系機能からとらえた視点でご講義していただけました.
神経系の機能解剖からニューロダイナミックテスト等の評価,神経モビライゼーションを用いた治療実技までご教授いただきました.神経組織は身体運動に伴い緊張したり,周辺組織に対して滑走したりといった機械的機能を有しており,運動器の理学療法において神経組織の機械的機能が障害されることによって,疼痛やしびれなどの症状の原因となることがある.神経の機械的機能のみならず循環等の生理学的な機能を再建していくことが重要であることを知りました.
神経根圧迫由来による疼痛発生メカニズムでは,病変の無い神経根への圧迫では疼痛は惹起されず,圧迫の程度や時間,化学物質による刺激や炎症を伴うことで神経根疼痛が惹起されるということ知りました.神経動力学的な視点を取り入れて介入していくことが重要であると知りました.椎間板ヘルニアや頚椎症性神経根症の除圧後で,筋力低下のみならシビレや感覚障害が術後思うように改善しない患者様の一助となるアプローチではないのかと感じました.
神経系動力学的視点を知ってうえで治療介入をおこなうことで,また違った捉え方ができるのではないかと思います.神経系機能障害は改善が難しいと思われていることが多い病態と思いますが,改善できる可能性がある限り勉強する必要性が高いと思いました.最後に,セミナーに参加できとても有意義な時間を過ごすことがでした.また次回参加させていただきたいと思います.
2日間を通して運動器疾患をトータルな視点で捉えるきっかけを頂けました。
学んだことを自分自身の体験に変えていけるように臨床に取り組んでいきたいと思います。
なお,今回のセミナーは(株)ジャパンライムの協力を得て撮影していただきました。
セミナーの様子が近日中にジャパンライムのHPに動画のコンテンツとしてアップされると思いますので,そちらもお楽しみにして頂けたらと思います。
ジャパンライム HP
http://www.japanlaim.co.jp/
(文責:MNS Holdings 運営スタッフ)